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大阪高等裁判所 昭和41年(う)937号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕論旨は、原判決は被告会社の期末棚卸材料の単価につき各種類別に最終仕入原価を出すことは資料上不可能である云々との理由により検察官主張の総平均法的方法で算出した単価をもつて最終仕入原価の平均単価であると推定することが許されると判示しているが、刑事事件では推定は許さるべきでなく、かかる推定理論を用いるのは不当である。証拠資料なく単価の算出が不可能であれば、疑わしきは罰せずの原則を適用すべきである、というのである。

よつて記録及び当審における事実調べの結果を精査し案ずるに、原判決は所論のとおり、昭和三五年度及び昭和三六年度分の各期末棚卸高の算定につき、被告会社が最終仕入原価法をとるものであることを認めながら、期末棚卸材料の各種類別に最終仕入原価を出すことは証拠資料上不可能であるとして、このような場合には総平均法的方法で算出した単価をもつて最終仕入原価の平均単価であると推定することが許されると判示している。その総平均法的方法による単価の算出方法は、公表期首棚卸金額(但し、昭和三六年度分は公表期首棚金額に期首除外棚卸金額を加える)に期中鋼材仕入金額を加えたものを公表期首棚卸量(但し、昭和三六年度分は前年度の公表期末棚卸量にその期末除外棚卸量を加える)に期中仕入鋼材量を加えたもので除するのであり、かようにして算出された単価が最終仕入原価の平均単価であると推定するのである。そして更に、右単価を期末除外棚卸数量に乗じて期末除外棚卸材料高を算定しているのである。

ところで、法人税逋脱の罪となるべき事実を構成する実際の所得金額を確定するに当つては、その前提として当該事業年度の総益金及び総損金の内容をなす個々の益金又は損金、即ち純資産の増加又は減少の原因となるべき各個の具体的事実を証拠により認定する必要がある。(東京高等裁判所昭和三九年(う)第一、二三一号、同四一年三月一六日判決参照)もつとも、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法第三一条第二項(昭和三七年法律第四五号による改正前の同法第三一条の四第二項)では所得金額の推計を認め、当該法人の財産もしくは債務の増減の状況、収入もしくは支出の状況又は事業の規模により直ちに所得金額を推計できることになつているが、右は課税処分のために認められた便宜的方法たるに止まり、刑事事件においてはかかる推計は許されないと解すべきである。しかし、弁護人主張のように法人税法違反の刑事事件では推定が総て許されないものではなく、一般刑事事件において事実上の推定として認められる程度の合理的な推定を用いることは何ら差支えない。

本件において原審は鋼材の各種類別の最終仕入原価を算出することは資料上不可能であるとし、鋼材を一本にして前記のような総平均法的方法で算出した単価をもつて最終仕入原価の平均単価と推定しているのであるが、棚卸資産の評価方法のうち法人税法施行令の認める原価法は、最終仕入原価法、総平均法など何れの評価方法を採用するにしても、期末棚卸資産をその種類、品質及び型の異なるごとに区分し、その区分ごとに夫々の方法のにより評価すべきもである。しかして、原判決挙示の買掛帳四冊(当裁判所昭和四一年押第二八五号の一ないし四)などによると、本件で問題とされる鋼材にも普通鋼、特殊鋼といつた品質による区別のほか鋼板、丸棒といつた形状による区別のあることが窺われ、夫々取引のトン当り単価が異るものと思料されるから、種類等を同じくするものに分類した上で計算するのでなければ最終仕入原価法あるいはは総平均法などの税法上の評価方法によつているとはいえないのである。原審は、鋼材を一本として前記のような総平均法的方法で算出した単価をもつて最終仕入原価の平均単価と推定しているが、最終仕入原価法はその期中の最終に取得した棚卸資産の単価によつてその種類等に属する棚卸資産の期末評価額が定まるものであるからその性質上時価の騰落の傾向が相当に影響するものというべく、従つて原審が用いた総平均法的方法により算出した単価と最終仕入原価の平均単価との間に相当の懸隔のある場合が予想されるのである。換言すれば、原審の用いた総平均法的方法は最終仕入原価の平均単価を求める推定方法としては合理性を欠くものといわざるをえない。仮に本件につき最終仕入原価法によらず総平均法により評価することとした場合、原審のような方法により一応鋼材の各種類等を通じた一つの単価を算出することはできるが、期末除外棚卸数量の内訳、即ち鋼材の種類等が不明である以上(高価なものか安価なものかによつて金額に相当の差が出る。)右単価に基く原審の算定方法は期末除外棚卸金額を求めるための合理的な推定方法とはいえない。しかして、本件においては期末除外棚卸高が確定できない以上、被告会社の所得金額を確定することはできず、従つて法人税逋脱金額を認定することもできないのである。されば、原判決がその挙示する証拠のみから原判示事実を認定したのは合理性を欠くものといわざるをえず、右のかしは結局判決の理由に不備があるものとして刑事訴訟法第三七八条第四号に該当するから、他の控訴趣意に対して判断を加えるまでもなく原判決はこの点において破棄を免れない。(江上芳雄 木本繁 山田忠治)

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